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【DFT】B97系密度汎関数の進化論:なぜ派生形がこんなに多いのか?

最終更新:2025-12-28

注意: この記事はAIによって自動生成されたものです。正確な情報については、必ず引用元の原著論文をご確認ください。

はじめに#

量子化学計算において、B3LYPと並んで非常によく使われるのが「B97」という名前のつく汎関数たちです。「B97-D」「wB97X-D」「B97-2」など種類が多くて混乱しがちですが、これらは**「以前のモデルで見つかった弱点を、物理的な工夫で修正する」**という歴史的な進化の系譜そのものです。

この記事では、オリジナルのB97がどのように生まれ、どのような壁にぶつかり、どう進化していったのかを解説します。

1. 全ての始まり:B97 (1997年)#

「もっと柔軟に、実験値に合うように調整したい」

解決したかった問題#

1990年代、B3LYPなどのハイブリッド汎関数が登場し成功を収めていましたが、それらの関数形は比較的単純で固定的なものでした。開発者のAxel D. Beckeは、「もっと自由度の高い数式を使えば、熱化学データ(原子化エネルギーなど)にもっと精密にフィットできるはずだ」と考えました。

解決策:冪級数展開(Power Series Expansion)#

B97の最大の発明は、交換・相関エネルギーを表す数式に、調整可能なパラメータ(係数)をたくさん持たせた**「冪級数展開」**を導入したことです。

数式で書くと、通常のGGA(一般化勾配近似)の形に、補正項 gg を掛け合わせる形をとります。

EXC=EXCGGA×g(s2)E_{XC} = E_{XC}^{GGA} \times g(s^2)

この補正項 g(s2)g(s^2) を、以下のように「扱いやすい変数 uu」の多項式(足し算)で表しました。

g(s2)=i=0mciu(s2)i,u=γs21+γs2g(s^2) = \sum_{i=0}^{m} c_i u(s^2)^i, \quad u = \frac{\gamma s^2}{1 + \gamma s^2}
  • ss: 電子密度の変化の激しさ(勾配)を表す変数
  • cic_i: 実験データに合うように調整するパラメータ(係数)

つまり、「パラメータ cic_i をうまく調整すれば、どんなカーブも描ける」という柔軟性を持たせたのがB97です。これにより、当時の標準的な汎関数よりも高い精度でエネルギーを予測できるようになりました。

2. 基礎の微修正:B97-1 と B97-2 (1998-2001年)#

「エネルギーだけでなく、電子の『形』も正しくしたい」

B97の登場後、「パラメータの決め方(フィッティング)」について2つの改良が行われました。

B97-1 (1998年)#

  • 問題点: 初代B97は、パラメータを決める計算において、近似的な電子軌道(LDA軌道)を使っていました。これは「最終的に得られる電子の状態」と「調整に使った状態」がズレていることを意味します。
  • 解決策: 汎関数自身が作り出す電子軌道を使って、**自己無撞着(Self-Consistent)**にパラメータを決め直しました。これにより、一貫性が増し、精度の信頼性が向上しました。

B97-2 (2001年)#

  • 問題点: エネルギーの値だけをターゲットに調整すると、**「エネルギーは合っているけど、電子密度(電子の雲の形)はおかしい」**ということが起こりがちでした。これではNMR(核磁気共鳴)などの物性予測がうまくいきません。
  • 解決策: 「エネルギー」だけでなく、**「ポテンシャル(電子が感じる力の場)」**も正解に近づくようにパラメータを調整しました。
    • 具体的には、高精度の ab initio 計算から得られたポテンシャルを参照データに加えました。
    • 結果として、分子構造やNMR遮蔽定数の予測精度が大幅に改善されました。

3. 「弱い力」への挑戦:B97-D (2006年)#

「ファンデルワールス力が記述できない」問題を解決する

解決したかった問題#

DFT(密度汎関数法)の最大の弱点の一つが、**分散力(ロンドン分散力、ファンデルワールス力)**を記述できないことでした。 例えば、ベンゼン環同士が重なるパラレルスタッキング構造などは、従来のDFTでは「反発し合ってバラバラになる」という誤った結果になりがちでした。

解決策:経験的な分散力補正項の追加#

Grimmeは、B97の数式に、古典的な**引力項(EdispE_{disp})**を強制的に追加するアプローチをとりました。

Etotal=EDFT+EdispE_{\text{total}} = E_{\text{DFT}} + E_{\text{disp}} Edisp=s6ijC6ijRij6fdamp(Rij)E_{\text{disp}} = - s_6 \sum_{ij} \frac{C_6^{ij}}{R_{ij}^6} f_{damp}(R_{ij})
  • C6R6- \frac{C_6}{R^6}: 距離 RR の6乗に反比例して引き合う力(分散力の基本式)。
  • fdampf_{damp}: 原子が近づきすぎた時に、この補正が暴走しないようにするブレーキ(減衰関数)。

この「B97-D」の登場により、巨大な有機分子やタンパク質などの計算が現実的な精度で行えるようになりました。

4. 現代の標準へ:長距離補正 (LC) の導入#

「電子が遠くに移動するときのエネルギーがおかしい」

解決したかった問題:自己相互作用誤差と電荷移動#

通常のDFT(B3LYPなど)は、電子が空間的に広がったり、遠くへ移動したりする現象(電荷移動励起など)の記述が苦手です。これは**自己相互作用誤差(SIE)**と呼ばれる、「電子が自分自身の作る電場と相互作用してしまう」というDFT特有のエラーが、遠距離で顕著になるためです。

解決策:範囲分離(Range Separation)#

ChaiとHead-Gordonは、電子間の相互作用 1/r1/r を「近距離」と「遠距離」に分割して扱う**長距離補正(Long-Range Correction: LC)**をB97に組み込みました。

1r12=erfc(ωr12)r12近距離 (DFTで計算)+erf(ωr12)r12遠距離 (HF交換で計算)\frac{1}{r_{12}} = \underbrace{\frac{\text{erfc}(\omega r_{12})}{r_{12}}}_{\text{近距離 (DFTで計算)}} + \underbrace{\frac{\text{erf}(\omega r_{12})}{r_{12}}}_{\text{遠距離 (HF交換で計算)}}
  • 近距離: 従来のDFT(B97)を使う。電子相関をうまく取り込める。
  • 遠距離: ハートリー・フォック(HF)交換積分を100%使う。これにより、遠距離でのポテンシャルが正しい形(1/r-1/r)になり、電子の過度な広がりを抑えられます。

この考え方に基づいて開発されたのが以下のシリーズです。

  1. ω\omegaB97X (2008年)

    • 長距離補正に加え、短距離部分にも少しHF交換(約16%)を混ぜることで、熱化学性能と反応障壁の記述を両立させました。
  2. ω\omegaB97X-D (2008年)

    • ω\omegaB97Xに、先ほどの「分散力補正(D)」を組み合わせたもの。
    • 「長距離補正(電子移動に強い)」+「分散力(弱い結合に強い)」という最強の組み合わせにより、共有結合・非共有結合問わず高精度な計算が可能になりました。
  3. ω\omegaB97X-D3 (2013年)

    • 分散力補正を、より新しいバージョンである**「DFT-D3」**にアップグレードしたもの。
    • 原子の周囲の環境(混雑具合)に応じてパラメータが変化するようになり、より多様な化学環境に対応できるようになりました。

まとめ#

B97系汎関数の歴史は、DFTの弱点を一つずつ克服してきた歴史です。

汎関数名登場年解決した課題主な特徴
B971997柔軟性が足りない冪級数展開による高精度フィッティング
B97-1/298/01軌道・ポテンシャルのズレ自己無撞着化、ポテンシャルフィッティング
B97-D2006分散力(弱い引力)がないC6/R6-C_6/R^6 項の追加
ω\omegaB97X2008遠距離での電子の振る舞い長距離補正(LC)の導入
ω\omegaB97X-D2008上記すべての統合LC + 分散力補正

現在、一般的に「とりあえず高精度な計算をしたい」という場合は、ω\omegaB97X-D が第一選択肢として推奨されます。これらは、先輩たちが積み上げてきた改良の結晶だからです。

参考#

  • Becke, J. Chem. Phys. 107, 8554 (1997). (Original B97)
  • Hamprecht et al., J. Chem. Phys. 109, 6264 (1998). (B97-1, HCTH)
  • Wilson et al., J. Chem. Phys. 115, 9233 (2001). (B97-2)
  • Grimme, J. Comput. Chem. 27, 1787 (2006). (B97-D)
  • Chai and Head-Gordon, J. Chem. Phys. 128, 084106 (2008). (ω\omegaB97, ω\omegaB97X)
  • Chai and Head-Gordon, Phys. Chem. Chem. Phys. 10, 6615 (2008). (ω\omegaB97X-D) -: Lin et al., J. Chem. Theory Comput. 9, 263 (2013). (ω\omegaB97X-D3)
【DFT】B97系密度汎関数の進化論:なぜ派生形がこんなに多いのか?
https://ss0832.github.io/posts/20251228_dft_b97-functional-overview-ja_2/
Author
ss0832
Published at
2025-12-28