最終更新:2025-12-29
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序論:密度汎関数法における相関エネルギーの重要性とPW91の位置づけ
密度汎関数法(DFT: Density Functional Theory)は、多電子系の基底状態エネルギーを電子密度の汎関数として記述する理論体系であり、現代の物性物理学および量子化学において不可欠な計算手法となっている。Kohn-Sham方程式の枠組みにおいて、全エネルギーは運動エネルギー、外部ポテンシャルエネルギー、古典的クーロンエネルギー(Hartreeエネルギー)、そして**交換相関エネルギー(Exchange-Correlation Energy)**の和として表される。
このうち、交換相関エネルギー は、多体効果の全てを内包する項であり、その正確な記述がDFTの信頼性を決定づける。交換エネルギー に関しては、Pauliの排他律に基づくフェルミ孔の概念により比較的直感的な理解が可能であり、局所密度近似(LDA)においても主要な寄与を捉えることができる。一方、相関エネルギー は、電子間のクーロン反発による動的な避け合い(dynamical correlation)を記述する項であり、その値は交換エネルギーに比べて小さいものの、化学結合の形成エネルギーや固体の凝集エネルギーといった「エネルギー差」を議論する上では決定的な役割を果たす。
1990年代初頭に登場した**PW91(Perdew-Wang 91)**汎関数は、一般化勾配近似(GGA: Generalized Gradient Approximation)の枠組みにおいて、実験パラメータへのフィッティング(半経験的手法)に頼らず、第一原理的な物理条件のみを満たすように構築された最初の包括的な汎関数セットである。特にその相関汎関数部分は、均一電子ガスに対する高精度な局所記述(PW92)と、交換相関正孔(Hole)の厳密な性質に基づく勾配補正を組み合わせたものであり、後のPBE汎関数などの基礎となった歴史的なマイルストーンである。
本稿では、PW91相関汎関数の構成要素を、その土台となる局所相関汎関数(PW92)と、不均一系への拡張であるGGA補正項の二段階に分け、それぞれの理論的背景と数理的構造を詳細に解説する。
1. 局所相関エネルギーの精密化 — PW92汎関数
GGAといえども、その出発点は電子密度が空間的に一定である極限、すなわち均一電子ガス(Homogeneous Electron Gas)の記述にある。密度勾配がゼロの極限で正しい値を返さない汎関数は、物理的に信頼できないからである。PW91相関汎関数の局所部分(Local Limit)を担うのが、1992年にPerdewとWangによって発表されたPW92局所相関汎関数である。
1.1 均一電子ガスの相関エネルギー:歴史的背景
均一電子ガスの相関エネルギー は、電子密度を表すWigner-Seitz半径 と、スピン分極率 の関数として定義される。
この の正確な値を知ることは、DFTの長年の課題であった。
- 高密度極限 (): 運動エネルギーが支配的となるこの領域では、乱雑位相近似(RPA: Random Phase Approximation)が正当化され、Gell-MannとBruecknerによる対数発散を含む級数展開が知られている。
- 低密度極限 (): ポテンシャルエネルギーが支配的となり、電子はWigner結晶と呼ばれる秩序構造を形成する。この領域では で展開されるエネルギー依存性を持つ。
- 中間領域: 実際の金属や原子・分子の電子密度()に相当するこの領域では、解析的な解が存在せず、補間公式に頼らざるを得ない。
1980年、CeperleyとAlderは量子モンテカルロ法(QMC)を用いて、この中間領域を含む全領域での相関エネルギーを数値的に厳密に決定した。これを受けてVosko, Wilk, NusairはVWNと呼ばれる補間公式を作成し、長らくLDAの標準として用いられてきた。しかし、VWNのフィッティングには微小な不連続性や、RPA極限との接続における滑らかさの問題が指摘されていた。
1.2 PW92の設計思想と関数形
PerdewとWangは、Ceperley-Alderのデータを再検討し、高密度および低密度の物理的極限をより自然に繋ぐ、極めて滑らかで単純な解析的表現(PW92)を提案した。
彼らが提案した関数形は以下の通りである。
ここで、 はパラメータである。この関数形は一見複雑に見えるが、その設計には深い物理的洞察が込められている。
高密度極限 () の再現: が小さいとき、対数の中身を展開すると、主要項として や定数項が現れる。PW92は、Gell-MannとBruecknerによる厳密な高密度展開の係数(非磁性状態では )をパラメータとして固定しており、摂動論的に正しい振る舞いを保証している。
低密度極限 () の再現: が大きいとき、対数項は引数が1に近づくため となり、全体として (および次のオーダーとしての )の依存性を持つ。これはWigner結晶のエネルギーあるいは強い相関流体としての振る舞いを正しく模倣している。特に、PW92ではVWNでは無視されていた の項まで考慮されており、低密度側の精度が向上している。
微分特性の滑らかさ: 相関ポテンシャル や、さらにその高階微分(圧縮率などに関連)を計算する際、補間式の微分が連続であることは数値計算の安定性にとって極めて重要である。PW92の形式は、全領域で無限回微分可能であり、VWNに見られたような接続点での微細な不整合が存在しない。
1.3 スピン依存性の記述
実在の系(特に磁性体や開殻分子)を扱うには、スピン分極率 への依存性が不可欠である。PW92では、相関エネルギーを以下の3つの成分から補間する標準的な手法を踏襲しつつ、その精度を高めている。
ここで は非磁性(Paramagnetic)、 は完全強磁性(Ferromagnetic)の相関エネルギーであり、 はスピン剛性(Spin Stiffness)と呼ばれる量である。 は交換エネルギーから導かれるスピン補間関数である。 PerdewとWangは、、、 の全てに対して同一の解析的関数形(前述の式)を適用し、それぞれの物理的極限に合わせて係数を決定した。これにより、スピン分極に対する応答もまた、第一原理的に正当化されたものとなっている。
このPW92局所相関汎関数は、PW91 GGAの「局所極限」として組み込まれているだけでなく、現代のPBE汎関数においても局所相関部分としてそのまま採用されており、その完成度の高さが窺える。
2. 勾配補正の構築 — 実空間カットオフ法
局所密度近似(LDA/LSDA)は均一な系では厳密だが、原子や分子のように電子密度が空間的に急激に変化する系(不均一系)においては、相関エネルギーの絶対値を過大評価する傾向がある。これを補正し、化学的精度に近づけるためには、密度の勾配 を取り入れた一般化勾配近似(GGA)への拡張が必要となる。
PW91の相関汎関数 は、局所項に勾配補正項 を加えた形式で表される。
ここで は無次元化された密度勾配である。問題は、この補正項 をどのように決定するかである。
2.1 勾配展開近似(GEA)の失敗
最も単純なアプローチは、緩やかに変化する系に対する摂動論、すなわち勾配展開近似(GEA)である。MaとBruecknerによって導かれたGEAの相関エネルギーは以下の形を持つ。
ここで は正の係数である。LDAが相関エネルギー(負の値)を過大評価(深く評価しすぎ)するのに対し、GEAの補正項(正の値)はエネルギーを浅くする方向に働くため、定性的には正しい方向への修正を与える。
しかし、GEAには致命的な欠陥があった。勾配 が大きい領域において、補正項 が無限に増大してしまうのである。相関エネルギーは定義上、電子間の引力的な相互作用(実際には交換を除く残差であり、通常負の値)に関連するため、ある程度以上エネルギーが正になることは物理的に不自然である。実際、原子のような有限系にGEAを適用すると、相関エネルギーが正の値になってしまうという非物理的な結果(Positive Correlation Energy Problem)を引き起こすことが知られていた。
2.2 相関正孔(Correlation Hole)の物理的制約
この問題を解決するために、Perdewらはエネルギー汎関数そのものではなく、その起源である相関正孔(Correlation Hole) に着目した。 相関エネルギーは、相関正孔と電子密度のクーロン相互作用として記述できる。
物理的に妥当な相関正孔は、以下の厳密な**総和則(Sum Rule)**を満たさなければならない。
これは、相関効果によって電子の分布確率は変化するが、全電子数は保存される(交換正孔が電子1個分を排除するのに対し、相関正孔は電荷中性である)ことを意味する。
GEAの相関正孔 は、長距離において不適切な振る舞い(長い尾を引く、あるいは発散する)を示し、この総和則を満たさない。これが、GEAがエネルギーにおいて破綻する根本的な原因であった。
2.3 PW91の実空間カットオフ(Real-Space Cutoff)アプローチ
PerdewとWangは、GEAの相関正孔に対して実空間での強制的なカットオフを導入することで、この問題を解決した。この手法の概要は以下の通りである。
- GEA正孔の採用: まず、Ma-Bruecknerによる第2オーダーの勾配展開正孔 を出発点とする。この正孔は、電子間距離 が小さい領域(短距離相関)においては非常に正確である。
- カットオフ半径の導入: ある半径 を超える領域では、正孔密度をゼロとみなす。
- 総和則の強制: カットオフ半径 を固定パラメータとするのではなく、「カットオフされた正孔の積分値が正確にゼロになる」ように、各点 における局所的な密度と勾配に応じて を動的に決定する。
この操作により得られた「修正された正孔」は、短距離ではGEAの精度を維持しつつ、長距離での発散が抑えられ、かつ総和則を厳密に満たすものとなる。この修正正孔を用いて相関エネルギーを再計算すると、勾配 が大きい領域においてもエネルギー補正項が発散せず、ある一定値(局所相関エネルギーを打ち消してゼロにする値)に収束するようになる。これにより、相関エネルギーが正になるというGEAの問題が解消される。
2.4 PW91相関汎関数の解析的表現
実空間カットオフ法は数値的にはロバストだが、計算コストが高いため、そのままでは実用的なDFTコードに実装しにくい。そこでPerdewらは、このカットオフ手順によって得られる数値結果を再現するような、解析的な関数形 を構築した。これが我々が利用するPW91相関汎関数の正体である。
具体的な数式は極めて複雑であるが、その本質的な挙動は以下の物理的要請に基づいている。
緩やかな変化の極限 (): となり、GEAを回復する。ここで係数 は経験的なパラメータではなく、Ma-Brueckner理論から導かれる密度依存の関数である。
急速な変化の極限 (): となる。すなわち、勾配補正項が局所項を完全に打ち消し、全相関エネルギー がゼロになる。これは「密度が急激に変化する場所では相関(多体効果による遮蔽)が消失する」という物理的直観と一致する。
均一スケーリング則: 密度を一様にスケーリングした際のエネルギーの変化則とも整合するように調整されている。
3. PW91の意義と後継汎関数への影響
3.1 「非経験的」であることの強み
PW91の最大の特徴は、B88(Becke 88)のような実験値へのフィッティングを行わず、総和則や極限挙動といった理論的制約のみから導出された点にある。このアプローチは、汎関数の適用範囲(Transferability)を広げる効果がある。実際、PW91は原子・分子だけでなく、固体表面の吸着エネルギーや金属の格子定数計算においても高い精度を示し、物理学と化学の両分野で広く受け入れられた。
3.2 複雑さという課題
一方で、PW91には実用上の課題もあった。実空間カットオフの数値解を再現するために導入された解析的関数形は、多数の項と複雑な切り替え関数を含んでおり、実装が困難であった。また、ポテンシャル(エネルギーの汎関数微分)に微小な数値的振動(wiggles)が生じることがあり、構造最適化の収束性に悪影響を与える場合があった。
3.3 PBEへの昇華
これらの課題を克服するために、1996年に提案されたのが**PBE(Perdew-Burke-Ernzerhof)**汎関数である。PBEは、PW91の物理的エッセンス(GEAの回復、高勾配での消失など)を継承しつつ、実空間カットオフの数値解を模倣するのではなく、物理条件を直接満たす最も単純な関数形として再設計された。 PBEの相関汎関数は、PW91と同様に でGEAを回復し、 で相関を消失させるが、その数式は対数関数を用いた非常にシンプルな形式(Parameter-free)にまとめられており、PW91の複雑さと数値的不安定性を解消している。
結論
PW91相関汎関数は、DFTの歴史において、局所密度近似(LDA)から一般化勾配近似(GGA)への移行を決定づけた極めて重要な理論的成果である。 その基盤となるPW92局所相関汎関数は、量子モンテカルロ計算の結果を基に、均一電子ガスのエネルギーを高密度から低密度まで高精度に記述するものであり、現在でも局所相関の標準として揺るぎない地位にある。 また、PW91の勾配補正項は、GEAの破綻を「相関正孔の実空間カットオフ」という物理的要請によって修復する画期的なアプローチで構築された。これにより、パラメータフィッティングに頼ることなく、原子から固体まで幅広い系を記述可能な汎用性を獲得した。
PW91自体は現在ではPBEなどのより洗練された汎関数にその座を譲っているが、その構築過程で確立された「第一原理的汎関数設計」の哲学と数理的手法は、現代のDFT開発においても基礎的な指針として生き続けている。
参考文献
- J. P. Perdew and Y. Wang, “Accurate and simple analytic representation of the electron-gas correlation energy”, Phys. Rev. B 45, 13244 (1992).
