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【DFT】TPSS相関汎関数の理論体系:自己相互作用誤差の解消と非経験的Meta-GGAの完成

最終更新:2025-12-29

注意: この記事はAIによって自動生成されたものです。正確な情報については、必ず引用元の原著論文をご確認ください。

序論:GGA相関汎関数の限界とMeta-GGAの必要性#

密度汎関数法(DFT)における相関エネルギー Ec[n]E_c[n] の記述は、電子間の動的なクーロン相互作用(Dynamical Correlation)を捉える上で不可欠である。1990年代に標準となった一般化勾配近似(GGA)、特にPBE相関汎関数は、局所スピン密度近似(LSDA)の過剰結合を補正し、多くの化学的・物理的性質の予測において成功を収めた。

しかし、GGAの相関汎関数には原理的な欠陥が存在した。それは、**「1電子系(水素原子など)において相関エネルギーがゼロにならない」**という問題である。 本来、電子が1つしか存在しない系では、電子間相互作用は存在せず、したがって相関エネルギーは厳密にゼロでなければならない(Self-Interaction Free)。

Ec[n(1)]=0E_c[n^{(1)}] = 0

しかし、PBEを含む多くのGGA相関汎関数は、電子密度 nn とその勾配 n\nabla n のみに依存する形式をとるため、1電子系と多電子系を局所的に区別することができず、水素原子に対して非ゼロの(負の)相関エネルギー(自己相関誤差)を与えてしまう。

2003年にJ. Tao, J. P. Perdewらによって提案されたTPSS(Tao-Perdew-Staroverov-Scuseria)汎関数は、電子密度のラプラシアンや運動エネルギー密度 τ\tau を利用するMeta-GGAの階層に属し、この自己相関問題を物理的に解決した。TPSSは、経験的なフィッティングパラメータを用いず、物理的制約条件のみを満たすように設計された「非経験的(Non-empirical)」汎関数であり、その相関項は交換項と対をなして「ヤコブの梯子」の第3段を構成する。

本稿では、TPSS相関汎関数の理論的背景、特に運動エネルギー密度を用いた自己相関の除去メカニズムと、その数理的構造について詳述する。


1. 理論的道具:運動エネルギー密度と等軌道指標#

TPSS相関汎関数においても、交換汎関数と同様に、Kohn-Sham軌道から計算される正定値の運動エネルギー密度 τ\tau が中心的な役割を果たす。

τ(r)=12ioccupψi(r)2\tau(\mathbf{r}) = \frac{1}{2} \sum_{i}^{occup} |\nabla \psi_i(\mathbf{r})|^2

1.1 等軌道指標 zz による系の識別#

GGA(密度 nn と勾配 n\nabla n のみ)では識別不可能だった「1電子領域」を特定するために、TPSSでは以下の無次元量(等軌道指標)zz を使用する。

z=τWτ,τW=n28nz = \frac{\tau_W}{\tau}, \quad \tau_W = \frac{|\nabla n|^2}{8n}

ここで τW\tau_W は von Weizsäcker 運動エネルギー密度である。この zz は以下の物理的意味を持つ。

  • z=1z = 1: 1電子系(One-electron system)。水素原子や、スピン偏極した単一軌道の裾野など。この領域では相関エネルギーはゼロでなければならない。
  • z0z \approx 0: 緩やかに変化する電子ガス(Slowly varying electron gas)。金属的な結合領域。この領域ではLSDAやGGAに近い記述が必要である。
  • z<1z < 1: 一般的な多電子系(共有結合など)。

TPSS相関汎関数は、この zz をスイッチング変数として用いることで、1電子領域 (z=1z=1) で強制的に相関エネルギーを消滅させ、それ以外の領域では適切な相関エネルギーを与えるように設計されている。


2. TPSS相関汎関数の構築:PKZBからの改良#

TPSS相関汎関数は、先行するMeta-GGAであるPKZB (Perdew-Kurth-Zupan-Becke) 汎関数の形式を基礎としつつ、そのパラメータを物理的制約から決定し直したものである。

TPSS相関エネルギー EcTPSSE_c^{TPSS} は、スピン非偏極の場合、以下の形式で記述される(スピン偏極系への拡張は標準的な手法による)。

EcTPSS[n]=d3rnϵcrevPKZB[1+dϵcrevPKZB(τW/τ)3]E_c^{TPSS}[n] = \int d^3r \, n \, \epsilon_c^{revPKZB} [1 + d \, \epsilon_c^{revPKZB} (\tau_W / \tau)^3]

ここで、ϵcrevPKZB\epsilon_c^{revPKZB} は「改訂版PKZB相関エネルギー密度」であり、dd は定数パラメータである。項 (τW/τ)3(\tau_W / \tau)^3 すなわち z3z^3 が、1電子系での補正を担う。

2.1 自己相関の除去(One-electron limit)#

1電子系においては、z=τW/τ=1z = \tau_W / \tau = 1 である。このとき、相関エネルギー密度がゼロになるためには、以下の条件が満たされればよい。

1+dϵcrevPKZB(1)3=0    ϵcrevPKZB1d1 + d \, \epsilon_c^{revPKZB} (1)^3 = 0 \implies \epsilon_c^{revPKZB} \approx -\frac{1}{d}

しかし、実際には ϵc\epsilon_c 自体が密度に依存するため、この単純な相殺は完全には成立しない。TPSSでは、より洗練された形式を用いてこの条件を満たしている。原著論文における正確な表現は以下の通りである。

ϵcTPSS=ϵcrevPKZB[1+C(ζ,ξ)z3]\epsilon_c^{TPSS} = \epsilon_c^{revPKZB} [1 + C(\zeta, \xi) z^3]

ここで係数 CC は、1電子極限 (z1z \to 1) において ϵcTPSS0\epsilon_c^{TPSS} \to 0 となるように調整されている。具体的には、相関エネルギー密度 ϵcrevPKZB\epsilon_c^{revPKZB} が有限の値を持つ限り、補正項がそれを打ち消すように働く。これにより、TPSSは水素原子などの1電子系において、相関エネルギーが厳密にゼロになり、自己相互作用誤差を含まない(Self-Correlation Free)。これはPBEにはない決定的な利点である。

2.2 改訂版PKZB (revised PKZB) の構成#

TPSSのベースとなる ϵcrevPKZB\epsilon_c^{revPKZB} 自体も、PBE相関汎関数をMeta-GGA用に修正したものである。PBE相関汎関数は以下のような形式を持っていた。

ϵcPBE=ϵcLDA+H(n,n)\epsilon_c^{PBE} = \epsilon_c^{LDA} + H(n, \nabla n)

TPSS(およびPKZB)では、この HH の部分において、密度勾配の依存性を緩和し、代わりに運動エネルギー密度 τ\tau への依存性を導入している。TPSSでは、PKZBで使用されていた経験的パラメータを排除し、以下の物理的制約を満たすように係数を決定した。

  1. 緩やかに変化する密度の極限(Slowly Varying Limit): z0z \approx 0 かつ勾配が小さい領域において、TPSS相関汎関数は勾配展開近似(GEA)の第2オーダーを再現しなければならない。

    EcEcLDA+βd3rnt2E_c \approx E_c^{LDA} + \beta \int d^3r \, n \, t^2

    ここで tt は無次元化された密度勾配である。TPSSはこの係数 β\beta を、Ma-Brueckner理論から導かれる理論値に一致させている。

  2. 均一電子ガス極限(Uniform Gas Limit): 勾配がゼロ(t=0t=0)かつ z=0z=0 の場合、TPSSは正確なLSDA相関エネルギー(PW92など)に一致する。


3. 物理的制約の充足と非経験的パラメータ#

TPSS相関汎関数の設計において特筆すべきは、PBEと同様に「実験値へのフィッティングを行わない」という姿勢である。式中に含まれるパラメータ(例えば ddβ\beta など)は全て、以下の物理的境界条件から一意に決定されている。

3.1 相関エネルギーの正値性の回避#

勾配展開近似(GEA)の欠点は、勾配が大きい領域で相関エネルギーが正の値(非物理的)になってしまうことであった。PBEはこの問題を解決していたが、TPSSも同様に、大勾配極限あるいは低密度極限において相関エネルギーがゼロに収束し、決して正の値を取らないように設計されている。

ϵcTPSS0\epsilon_c^{TPSS} \le 0

3.2 スケーリング則#

密度の一様スケーリング nλ(r)=λ3n(λr)n_\lambda(\mathbf{r}) = \lambda^3 n(\lambda \mathbf{r}) に対する相関エネルギーの挙動についても、高密度極限 (λ\lambda \to \infty) で一定の有限値に収束するというスケーリング則(Scaling relation)を満たすように構成されている。

3.3 表面エネルギーへの寄与#

固体の表面エネルギー計算において、GGA(PBE)は相関エネルギーの寄与を過小評価する傾向があった。TPSSでは、運動エネルギー密度 τ\tau を導入することで、表面付近の電子状態(電子密度が急激に減衰する領域)をより正確に記述できるようになった。これにより、TPSSは固体の表面エネルギーをPBEよりも正確に予測することが示されている。


4. TPSS相関汎関数の性能と意義#

4.1 自己相互作用誤差の解消による改善#

TPSS相関汎関数が1電子系でゼロになることは、単に水素原子のエネルギーが改善されるだけでなく、反応障壁や解離エネルギーの計算においても好影響を与える。反応遷移状態や結合が切れる瞬間には、局所的に電子が孤立化する(1電子的な振る舞いをする)領域が生じることがあり、GGAではこの領域の相関エネルギーを誤って見積もることが誤差の原因となっていた。TPSSはこの誤差を排除することで、原子化エネルギーや反応障壁の精度を向上させている。

4.2 コンスタントな精度の向上#

原著論文のベンチマークによれば、TPSS(交換+相関)は、PBEと比較して以下の点で優れている。

  • 原子化エネルギー: 分子の結合エネルギーの予測精度が向上。
  • 格子定数: 固体の格子定数の誤差が低減。
  • 表面エネルギー: 金属表面のエネルギー記述が大幅に改善。

これらの改善は、交換汎関数の改良(第4次オーダー勾配展開の取り込み)と、相関汎関数の改良(自己相関の除去)の相乗効果によるものである。

4.3 限界と課題#

TPSS相関汎関数は、静的な相関(Static Correlation)や長距離分散力(van der Waals力)を明示的には含んでいない。したがって、希ガスダイマーの結合や、強い静的相関が支配的な系(Cr2など)の記述には依然として限界がある。これらの効果を取り込むには、さらに上位の階層(ハイブリッド汎関数やDouble-Hybrid、あるいは分散力補正DFT-D)が必要となる。 また、Meta-GGAは数値積分において、グリッドの細かさに敏感である(Numerical Sensitivity)という実装上の課題も指摘されている。


結論#

2003年に提案されたTPSS相関汎関数は、Meta-GGAの枠組みにおいて、相関エネルギー記述の物理的正当性を一段階高めた理論である。 Tao, Perdewらは、運動エネルギー密度 τ\tau と等軌道指標 zz を巧みに利用することで、PBEなどのGGAが抱えていた「1電子系における自己相関誤差」という原理的な欠陥を、経験的パラメータを用いることなく解消した。

TPSS相関汎関数は、

  1. 均一電子ガス極限の正確な記述(LSDA)
  2. 緩変化極限におけるGEAの回復
  3. 1電子極限における相関エネルギーの消失

という異なる物理的極限を単一の解析的関数形で統一的に記述することに成功している。これにより、TPSSは分子の化学反応から固体の物性までを、経験的補正なしで高精度に予測できる「万能型」の汎関数として、計算化学・物理学の分野で広く利用されるに至った。その設計思想は、後のSCAN汎関数などの開発にも直接的に受け継がれている。

参考文献#

  • J. Tao, J. P. Perdew, V. N. Staroverov, and G. E. Scuseria, “Climbing the Density Functional Ladder: Nonempirical Meta-Generalized Gradient Approximation Designed for Molecules and Solids”, Phys. Rev. Lett. 91, 146401 (2003).
【DFT】TPSS相関汎関数の理論体系:自己相互作用誤差の解消と非経験的Meta-GGAの完成
https://ss0832.github.io/posts/20251229_dft_mgga_correlaction_functional_tpss/
Author
ss0832
Published at
2025-12-29